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主にIT関連や時事ネタの興味を持ったことを、なるべくわかりやすく書いてみようとおもいます。

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熊本県で発生した地震時のLINEさんの対応にみる、災害時の通信のあり方

(2016/04/16 11:30追記) LINEさんから見解が出たので、それについての考察記事を書きました。熊本県で発生した地震時にLINE Outを一部無料化したLINEさんの見解とその考察 - わかりやすい

表記の件。

例によって技術者の立場からの記事ですが、今回は珍しくLINEさんの対応を批判しています。 LINEさんの行動の真意(とりわけ「営業的思惑の有無」)に興味がある方は多いと思いますが、この記事では扱いません。

目次

結論

  • LINEさんの「LINE Out 1通話10分まで無料」施策は、結果的に被災地の電話網の不要な負荷増に加担してしまった可能性が高い
  • 届出電気通信事業者とはいえ、電気通信事業を行う会社として、法の趣旨に反した非常に軽率な行動だったと言わざるを得ない

以下、もう少し具体的に考察していきます。 まずは事実の確認から。

LINEさんが、いつ、何をしたのか

※以下、災害時に取る行動として推奨されない情報が含まれます。記事として読み、災害時の行動の参考としないでください。

2016/04/14(Thu) 21:26頃

熊本県震源とした地震発生

2016/04/14(Thu) 22:21頃 (地震発生から約55分後)

LINEの公式Twitterアカウント「@LINEjp_official」が以下をツイート

2016/04/14(Thu) 23:16頃 (地震発生から約1時間50分後)

LINEの公式Twitterアカウント「@LINEjp_official」が以下をツイート

※誤解が広がらないように削除される可能性があるので、本文のみ以下に引用します。

LINEから固定電話・携帯電話にかけられる「LINE Out」機能で、
日本国内の番号への発信を1通話最大10分まで無料化しました。
家の電話やLINEでつながっていない方への安否確認にご活用ください。
#熊本 #地震 #拡散希望

以降、上記ツイートに返信が多数寄せられる。 その大半は「電話網に負荷を掛けることになる」ことを懸念した、批判的な内容。

2016/04/15(Fri) 01:50頃 (無料化案内から約2時間34分後)

LINEの公式Twitterアカウント「@LINEjp_official」が以下をツイート

[https://twitter.com/LINEjp_official/status/720655437729673216:embed]

※なぜか展開されないので引用

安否確認の連絡は、まず通信量の少ない災害伝言板やLINEトーク等をご利用ください。
https://t.co/GGBjQj7RRQ 
先ほどご案内したLINE Outは回線に負荷が集中する恐れがあるため、
緊急性が高い場合のみご利用いただくようご協力をお願いします。
#熊本 #安否確認

災害時に通信はどうあるべきか

そもそも通信ってどうやって成り立ってるんだっけ

通信は通信用の設備で成り立っていますが、通信用設備にはキャパシティ(許容量)があります。 「同時にx回線まで利用可能」とかですね。

キャパシティが高ければ機器は高価になりますし、逆に低ければ機器は安価になります。

稼働率(キャパシティに対してどれだけ利用されているか)を高くすると儲けがたくさん出ますから、通信会社としてはなるべく安い機器にたくさん通信をさせたいわけです。 ただ、ケチりすぎると通信がパンクしてしまうので、その通信設備に期待される通信量に応じて、適切なキャパシティの通信設備を用いています。

どういうときに通信が成り立たなくなるんだっけ?

通信設備の故障が一番わかりやすいですが、それ以外に「通信したい人の数が通信設備のキャパシティを超える」という状況が考えられます。 人気アイドルのコンサートチケット発売時刻とか、新年が明けたし瞬間とか、今回みたいな災害発生時の安否確認とかで発生します。

通信したい量が通信設備のキャパシティを超えると、通信設備がパンクしてしまいます。専門用語では輻輳(ふくそう)」といいます。

輻輳すると何が起きるかというと、「使える人の数がキャパシティを大きく下回る」ことになります。 不思議ですね、キャパシティに近い性能くらいは出てほしいんですが、そうではないんです。

ところで輻輳が起きたとして、そこで行えなかった通信はいろんな内容がありますよね。 災害時にどんな通信があるのか。

  • 普通の日常的な通信
    • 災害があろうが無かろうが、行われている通信
  • 安否確認
    • 心配だけど、この通信ができないことが原因で人が死ぬことは無い
  • 救助要請(119番
    • この通信ができないと、それが原因で助けられた命が助けられないことがある
  • 二次被害予防のための警察・行政機関等への通信
    • この通信ができないと、それが原因で新たに命の危機を生むことがある

災害時、どの通信が優先的に扱われるべきか、こうやって並べると誰でも簡単に判断できますよね。

輻輳を防ぐために、誰が何をするのか?

さて、本題に近づいてきました。 通信設備を守るために、誰が何をするか。

通信事業

一番の主役です。NTT東西さんとか、ドコモさん、KDDIさん、ソフトバンクさん、あとNTTコミュニケーションズさんあたりが対象ですね。 彼らは「重要通信」を守ることを目的に、輻輳を防ぐ」をために「必要最小限度の通信の制限」を行います。 これにより、重要通信以外はキャパシティが逼迫している通信機器に到達しなくなります。 ちなみに重要通信を守るための通信の制限は、電気通信事業法において彼らに課された「義務」です。

通信利用者

電話やLINEを使っている我々ですね。どうあるべきか、でいうと、

  • 救援要請等は遠慮なく行う
  • 重要通信の邪魔になるような通信は極力行わない

これに尽きると思いますが、これって具体的に何をどうすればいいのか、難しいですよね。 考えるための材料を少し整理してみます。

  • 輻輳しにくい通信手段を選ぶ

電話(通話)よりSMS(ショートメッセージ)、SMSよりインターネット(LINEとかSkypeとかTwitterとかFacebookとか)です。

「インターネット」は、「(電話やSMSが使う)電話網」より通信のキャパシティが大きいケースが多いですが、例えばインターネット用の通信線が切れた場合など、インターネットも輻輳するときは輻輳します。以下も是非参考にしてください。

  • 少ない通信量で用件を済ます

動画より静止画や音声、静止画や音声よりテキストメッセージが通信量が少なく、通信設備にやさしいです。 また、動画や音声の再生は携帯端末の電池をテキストよりも多く消費します。 なるべくテキストメッセージがいいでしょう。

  • うまく通信できないときは

輻輳している可能性があります。 短時間に何度も再挑戦しようとすると、輻輳の復旧を遅らせてしまうことになります。 電話にせよSMSにせよインターネットにせよ、うまく通信できないときは少し時間をおいてから再挑戦しましょう。それだけで輻輳の回復が早くなります。

LINEさんの対応はどうだったのか

LINEさんは「LINE Out」という機能を条件付きで無料化し、安否確認にLINE Outを使うように推奨していましたね。 「LINE Outは」調べたところ、「(インターネットにつながった)LINEが動いているスマホと電話網の間で電話をさせる」機能のようです。

みんながLINE Outで安否確認を行ったらどうなりますかね。 今回の件で言えば、熊本の電話の通信設備にLINE Outから通信が流入することになります。

今回、熊本で輻輳が発生したかどうか、通信事業者が重要通信を守るための通信制限を行ったかどうかは私は調べていませんが、どちらも発生しない・行われない方がいいのは当たり前です。

LINEさんの今回の対応は、輻輳の発生や通信制限の発動を加速させる方向の対応でした。 これはとてもよくない。

電気通信事業の観点から見るLINEさん

LINEさんは「電気通信事業法」の規程する「届出電気通信事業者」のようです。

linecorp.com

届出電気通信事業者A-20-9913

LINEさんの今回の対応は電気通信事業法上は違法ではないと考えます。 (詳細は要望がたくさんあれば書こうと思いますが、ややこしいのでとりあえず省略します。) ただ、法の趣旨に反した行為であったと考えます。以下、電気通信事業法の目的を引用します。

(目的)
第一条  この法律は、電気通信事業の公共性にかんがみ、
その運営を適正かつ合理的なものとするとともに、
その公正な競争を促進することにより、
電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し、
もつて電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、
公共の福祉を増進することを目的とする。

地震発生の直後から自分たちにできることを考え、 地震発生の1時間50分後にアクションを起こしたその迅速さにはとても敬意を表します。

ただ、今回の施策は重要通信の確保を妨げかねない軽率な行動だったと思います。 しかも、LINEさんは(届出電気通信事業者とはいえ)電気通信事業者でした。

届出電気通信事業者は、簡単に言えば「電話ほど品質が求められない、ライトな事業者」です。 (詳細は電気通信事業法を読んでいただければと思います。) 電気通信がどうあるべきかについて、電話屋とインターネット屋(老舗大規模ISPを除く)では向き合い方が全く違います。 奇しくもLINEさんは、「自社がいかに電気通信事業を理解していないか」「届出電気通信事業者の中には、電気通信事業法の目的すら理解していない事業者が存在する」という二つの事実を明々白々にしてしまいました。

LINEさんの今後の改善に大いに期待したいと思います。

(2016/04/16 11:30追記) LINEさんから見解が出たので、それについての考察記事を書きました。[http://wakariyasui.hatenablog.jp/entry/2016/04/16/112037:title]

よろしければシェア・ツイート等お願いいたします。

以下、うんちく

電話屋とインターネット屋の通信品質に関する考え方の違い(LINEさんに同情する方向の技術的考察事項)

例によって推測を含みます。

インターネットにおける通信品質の考え方と、電話における通信品質の考え方にはかなりギャップがあります。 電話は(輻輳が起こる通信設備の役割にもよると思いますが)

これが基本的な対応方針です。

一方のインターネット(とりわけ、コンテンツ屋やアプリ屋)はというと、

  • 増強

これが基本的な対応方針です。なぜか。

  • 輻輳とか通信制限で発生する機会損失による経済的ダメージが大きい
  • 増強が電話に比べて容易・安価

つまり、コンテンツ屋・アプリ屋には「通信を区別」して「特定の通信を守る」という文化が希薄なんです。
(実効的かどうかはさておき、インターネットにおいて通信を区別したり特定の通信を守る技術はもちろんありますし、通信屋寄りのインターネット屋はそれらを駆使して、相応の価値を社会に提供しています。)

また、電話(VoIP)で発生する通信量は、彼らが扱う総通信量に比べたらゴミみたいなものです。 ちょっと(数万)呼が発生しただけで通信設備に影響が出るなんて、というのが、 今回施策のゴーを出した方の本音かもしれません。
(少なくとも電気通信事業法に明るい方が意思決定に携わっていらっしゃれば、ゴーが出ることは無かったでしょう。)

ソフトバンクさんの例

日本には、「大規模災害発生時における公衆無線LANの無料開放」を行う仕組みがあります。

[http://www.wlan-business.org/customer/introduction/feature/00000japan:title]

公衆無線LANの関連事業者が主体的に行っています。

ほかの事業者さんも無料開放を開始しているかもしれませんが、ソフトバンクさんの記事が最初に目についたので、一例として。

[http://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/info/2016/20160415_01/:embed:cite]

災害時にインターネットが使える(結果的に電話への負荷も軽減される)ことが重要であることは東日本大震災の教訓でもあり、 ソフトバンクさんをはじめ、きっちり運用されている通信事業者の方々に敬意を表します。

東日本大震災時の例

電話屋以外でも、災害時等に通信の品質をしっかり考えている企業は存在します。

[http://morioka.keizai.biz/headline/873/:embed:cite]

電気通信事業についてIIJさんとLINEさんを比べるのは酷ですが、 法の趣旨をきちんと理解しているIIJさんとLINEさんの対応の違いには、学ぶところがありそうです。

 ITソリューションを手がける「インターネットイニシアティブ(IIJ)」(東京都千代田区)は3月16日、
東日本大震災の発生を受け、岩手、宮城、福島各県の自治体のミラーサイトの無償提供を始めた。

 各自治体へのアクセス集中による負荷を緩和するのが目的で、
地震発生後、閲覧が困難だった自治体ホームページが見やすくなる。

ミラーサイトは現在、市町村のみ公開されており、順次全ての自治体へ広げていくという。

 同社広報担当者によると
「福島県のように、ミラーサイトを構築する前に既にサーバーダウンしてしまったところもあり、
全ての自治体をカバーできていない。特に県はまだできていないが、
各県の広聴広報課と連絡が取れ次第、順次公開していきたい」
と話している。

 ミラーサイトは、同社が今月14日から無償提供しているクラウドサービス
「IIJ GIOホスティングパッケージサービス」を利用したもの。
設備が関西にあることから、東北や関東地域の電力不足の影響も受けにくいとしている。

この記事の改定履歴

  • 2016/04/15(Fri) 12:20頃 ソフトバンクさんの例を追記、一部目次構成を変更